動脈は、心臓から送り出された血液を、全身の臓器や細胞へ届ける重要な器官です。心臓が血液を送り出す圧力はとても強く、その強い圧力に耐えるために、動脈には「しなやか」な弾力性が必要です。
ところが、動脈の壁の内部へコレステロールが溜まっていくと、動脈の内側に「プラーク」という隆起を形成し、動脈の「しなやか」な弾力性が失われていきます。このようにして動脈が硬くなった状態を「動脈硬化」といいます。動脈硬化が進行しすぎると、動脈が骨のようにカチカチになることもあります。
動脈硬化は気づかれにくい
動脈硬化は、加齢によって誰にでも起こりますが、生活習慣の違いで動脈硬化の進行スピードはまったく異なります。気づかれないまま進行することがほとんどで、からだに症状が出てきた時には、さまざまな臓器に障害が発生しており、命に関わることがあります。
代表的な病気は、
狭心症、
心筋梗塞、脳卒中、
閉塞性動脈硬化症です。特に、心筋梗塞や脳卒中は、命に直結することもある恐ろしい病気であり、2つの病気を合併することもしばしばあります。
一度進行した動脈硬化が治ることはありません。
そのため、動脈硬化の原因となるような生活習慣を避け、定期的に血管の状態を把握することが大切です。
動脈硬化の原因
動脈硬化の進行を速める原因は、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、肥満、喫煙、加齢、男性などが挙げられます。これらの要因が多いほど、動脈硬化の進行スピードが上がり、心臓病や脳卒中などのリスクが高くなります。
動脈硬化の検査
血圧脈波検査装置を使って、ABI(足と腕の血圧の比)やPWV(心臓の拍動が手足へ伝わる速度)を測定します。手足に血圧計を巻くことで簡単に検査でき、痛みはありません。
また、頸動脈を超音波(エコー)検査で観察し、頸動脈の壁についたプラークの厚さや形状を調べることで、動脈硬化の進行程度を調べます。
動脈硬化性疾患を診てきて思うこと・・・
私はこれまで、カテーテル治療の専門医として、
狭心症、
心筋梗塞、
閉塞性動脈硬化症などの動脈硬化性疾患に対して、カテーテル治療を行ってきました。
ほとんどの場合は、カテーテル治療で症状を緩和し、その後も薬剤治療を継続することで再発なく過ごせますが、動脈硬化が激しく進行している方は、再発を繰り返し、そのたびに治療しなければなりませんでした。そのため、何度も病院へ入院することになり、安定した日常生活を送ることが難しくなります。カテーテルでの治療が限界になり、バイパス手術などからだへ大きな負担をかける外科手術を選択せざるを得ないこともありました。
また、狭心症や心筋梗塞を発症した場合、心臓のポンプ機能が悪くなることで、
心不全を発症しやすくなります。心不全の最も多い原因は心筋梗塞などの動脈硬化性疾患です。心不全は繰り返すことの多い難治性の病気であり、重症になると何度も入院を繰り返すことも珍しくありませんでした。
このような、動脈硬化による心臓病、血管病で困っている患者様をたくさん診てきたなかで、カテーテル治療で症状を緩和することは大切ですが、それ以上に、原因である動脈硬化を予防することが重要であると強く考えるようになりました。そのためには、動脈硬化が進行する前に対処することが大切であり、定期的な健診はもちろんのこと、患者様ひとりひとりの病気へ向き合う意欲を高めることが重要だと考えています。
動脈硬化の治療は、日々の健康的な生活習慣の積み重ねが大切です。言葉で言うのは簡単ですが、健康的な生活習慣を毎日実践することは容易ではありません。
長年慣れ親しんだ濃い味付けの食事を変えることは難しいでしょう。
運動が大切だとわかっていても理由をつけてサボってしまうこともあるでしょう。
無理せず、少しずつ、健康的な生活習慣に近づけていき、それを継続することが大切です。必要なときは、生活習慣改善に加えて薬剤治療を併用することも重要です。
患者様のライフスタイルに合わせたベストな治療方法を一緒に考えていきたいと思いますので、お気軽に相談ください。